毎年やってくるつらい春の花粉症の季節。鼻水、鼻づまり、くしゃみでお悩みの方や、季節を問わず慢性的な鼻炎症状に苦しんでおられる方へ。当院では、既存の治療では効果が不十分な方や、眠気などの副作用でお薬が飲めない方のために、新しい治療の選択肢として「ボトックス®(ボツリヌス毒素製剤)」を用いた鼻炎治療を自由診療にて行っております。
ボツリヌス治療とは?
ボツリヌス(ボトックス®など)治療は、神経の働きを抑える作用を持つ薬剤です。世界中で長年にわたり様々な疾患の治療に用いられており、その有効性と安全性は数多くの研究で検証されています。
※いわゆるボトックスはアラガン社の登録商標になります。
日本では、以下の疾患に対して厚生労働省の承認を受け、保険診療で広く使用されています。
- 眼瞼痙攣、片側顔面痙攣
- 痙性斜頸
- 上肢痙縮、下肢痙縮
- 重度の原発性腋窩多汗症
- 斜視
- 痙攣性発声障害
- 過活動膀胱における尿意切迫感、頻尿及び切迫性尿失禁
- 神経因性膀胱による尿失禁
このように、ボトックスは医療現場で確立された信頼性の高い薬剤です。
鼻炎に対するボトックス治療のエビデンス
近年、このボトックスがアレルギー性鼻炎や慢性鼻炎の症状を和らげる効果があることが、世界的な研究で示されています。
2021年に発表されたメタアナリシス(複数の質の高い研究結果を統合して分析したもの)では、慢性鼻炎患者340名を対象とした9つの研究が評価されました。その結果、ボトックスの鼻腔内治療は、鼻症状全体のスコアとQOL(生活の質)を治療後12週以内に有意に改善させることが報告されています。効果は最大で24週間持続する可能性も示唆されました。
また、安全性に関しても、重篤な有害事象はなく、他の治療法に比べて副作用が少ない傾向にあると結論付けられています。
当院の施術プランと料金について
花粉症・鼻炎に対するボツリヌス治療(ボトックス®など)は、保険適用外のため自由診療となります。 当院では、患者様のご希望や症状に合わせて最適な治療プランをご提案します。
1. 施術方法
鼻腔内注射 | 鼻腔内浸潤法 | |
メリット | ・鼻の奥(鼻甲介等)に薬剤を直接届けられる ・施術時間が短い ・効果が長く持続する可能性がある | ・噴霧の場合は痛みがほとんどない(ガーゼ留置は痛むときがある) ・噴霧の場合は施術時間が短い |
デメリット | ・注射による痛みがある場合がある | ・ガーゼ留置の場合は施術後30分程度の観察が必要 ・注射に比べて効果持続が短い可能性がある |
2. 使用する薬剤
厚生労働省 承認薬 | 未承認薬(韓国製など) | |
特徴 | 厚生労働省が他疾患で有効性と安全性を審査し、国内で承認した薬剤です。(例:ボトックスビスタ®) | 海外で広く使用されていますが、国内では未承認の薬剤です。 |
メリット | ・他疾患であるが国内で安全性が保証されている | ・費用を抑えられる |
デメリット | ・本疾患での国内での安全性は検証されていない ・費用が高価になる | ・国内での安全性は検証されていない |
料金目安 | 1単位 800円程度(税込) | 1単位 400円程度(税込) |
※初診料・再診料・手技料別途
施術プランについては、ご希望に沿って個別に判断いただけます。当院では、診察を通して、患者さま一人ひとりの状況に応じたアドバイスを丁寧に行っております。
はなくりでは即効性がない治療のため基本的には標準治療(内服・点鼻)を優先し、それでも鼻症状がコントロールできず仕事やプライベートに支障が出ている場合への適用を推奨しております。医師と一緒に最適な治療法を相談していきましょう。
※厚生労働省の通達により混合診療に当たるため、保険診療における花粉症治療とボツリヌス治療は同日に実施できません。当院としても既存の治療で改善せず悩んでいる患者様や、副作用などで既存治療が実施できない患者様におすすめしており、まずは保険診療内での治療をおすすめしております。
副作用や合併症のリスク
- これまでの研究で、重篤な有害事象や合併症の発生は報告されていません。安全性は高い治療法と考えられています。
- 報告されている有害事象として、約3%の方に鼻の乾燥感(鼻水を止める効果が強く出る)、灼熱感、軽度の鼻出血などが報告されていますが、いずれも軽微で一時的なものです。
- 数カ月程度でボツリヌス治療の効果は薬剤の分解と神経の再生などの影響で薄れていき、効果が弱くなります。
- 短期間で継続的・反復的に使用することで、ごく稀に効果が弱まる(抗体ができてしまう)可能性があります。
- 加齢に伴う鼻の乾燥感が増悪するなどの将来的な影響の可能性は原理上考慮されます。
- 以下に記載の通り使用できない方がいます。
対象となる方・治療を受けられない方
- 対象年齢: 原則として成人(18歳以上)の方が対象です。
- この治療を受けられない方:以下に当てはまる方は、ボツリヌス治療を受けることができない場合があります。安全のため、必ず事前に医師にお知らせください。
- 全身性の神経筋接合部の疾患(重症筋無力症、ランバート・イートン症候群など)をお持ちの方
- 妊娠中の方、妊娠の可能性がある方、授乳中の方
- 過去にボツリヌス毒素製剤でアレルギー反応(発疹、じんましん、呼吸困難など)を起こしたことがある方
代替治療
- 抗原除去・回避:マスク、アイゴーグル着用、空気清浄機、眼・鼻洗浄など。
- まずは優先する方法になります。
- 標準的薬物療法:抗ヒスタミン薬、抗ロイコトリエン薬、ステロイド点鼻薬など。
- 基本的には次に優先される治療になり、重症度に応じて使い分けます。ボツリヌス治療は数日後から徐々に効き始めるとされており立ち上がりが遅いため、その意味でも優先される治療です。
- アレルゲン免疫療法:シダキュア®など。
- 自然な免疫の受容を促す治療であり推奨されますが、即効性がないことや薬を毎日飲み続ける手間や金銭的な問題があります。
- 手術療法:鼻粘膜焼灼術、後鼻神経切断術など。
- 特に構造的な問題があり鼻閉が強い方に勧められますが、重度の場合には合併症予防(癒着防止など)のためにシーズン中の手術が勧められない場合があります。現状は当院では実施しておらず、高度医療機関にご紹介しております。
- 自由診療:
- ステロイド注射(静脈注射、筋肉注射):
- ステロイド注射は瘢痕形成や、長期的な副作用に蓄積効果がある可能性が指摘されており、当院では実施しておりません(一方、ステロイド点鼻薬は血中濃度に影響がほとんどないとされており安全性は高いとされています ※一部のステロイド点鼻薬を除く)
- 高濃度ビタミンC点滴療法:
- エビデンスは未調査です。当院では実施しておりません。
- グルタチオン・αリポ酸点滴療法:
- エビデンスは未調査です。当院では実施しておりません。
- ノイロトロピン・ヒスタグロビン注射:
- 当院では実施しておりません。
- オマリズマブ(ゾレア®)皮下注射:
- 一部の方に保険適応にもなっている治療です。保険適応に使用する場合の採血などの煩雑な過程や適応範囲の狭さで悩まれる患者さんもおり、そのために少量投与を自由診療で行っているクリニックもある治療です。当院では長期的な不確定要素を考慮し現状は実施しておりません。
- ステロイド注射(静脈注射、筋肉注射):
国内のクリニックでも、花粉症に対するボツリヌス治療が少しずつ広がっています。これまでさまざまな治療を試してもなお症状に悩まされている方や、副作用のために内服での治療が難しかった方にとっての新たな治療の選択肢として、耳鼻咽喉科を専門としている医師が在籍している当院でも本治療を導入することにいたしました。
話だけでも聞いてみたい方やご質問やご不明点がある場合なども、どうぞお気軽に医師にご相談ください。
引用文献
- Ayoub N. Botulinum Toxin Therapy: A Comprehensive Review on Clinical and Pharmacological Insights. J Clin Med. 2025 Mar 16;14(6):2021. doi: 10.3390/jcm14062021.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40142828/ - Rinzin K, Hoang MP, Seresirikachorn K, Snidvongs K. Botulinum toxin for chronic rhinitis: A systematic review and meta-analysis. Int Forum Allergy Rhinol. 2021 Nov;11(11):1538-1548. doi: 10.1002/alr.22813.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33956405/